「失敗力」とは、失敗を恐れずに挑戦する力です。
AI(人工知能)の発達によって、10年から20年後には、今ある仕事の約49%は自動化され、無くなるという予測があるように、
変化のスピードが格段に早くなっています。
子どもたちが生きる未来は、わたしたちの想像を超えた変化の時代といえるでしょう。
ということは、子どもが幸せに生きていけるようにと万全の準備をしたつもりでも、
その道がなくなってしまうリスクがあるということです。
リスクというと子どもたちの未来は暗雲が立ち込めているようですが、見方を変えれば、
49%の仕事の代わりに、新しい仕事が生まれるチャンスがあるということです。
ピンチはチャンスです。
しかし、ピンチをチャンスにするためには、失敗を恐れず挑戦する力、「失敗力」が必要です。
でもわたしたち親は、失敗を恐れます。
だから子どもにもついつい「そんなことをしていると失敗するよ」とアドバイスをしがちです。
しかし、ちょっと考えてみてください。失敗したのは、そのときの能力以上のことに挑戦した結果です。
つまり、成長のチャンスということですね。
失敗させないということは、子どもの成長のチャンスを奪ってしまうことではないでしょうか。
AI時代を生き抜くためにも「失敗力」のある子どもに育てませんか?
序 章「毎日スケジュールがいっぱい」それでいいの?
第1章 世の中は急激に変わっている
未来には、どんな仕事があるんだろう
2050年の日本と世界の人口から分かること
日本から一歩も出なくても、グローバル化はやって来る
学歴の考え方も変わってきた
変化に対応できる人だけが生き残る
第2章 日本の教育には何が足りない?
日本の学校は苦手製造機
デンマークで見た考える力を養う学び
オランダで知った社会性の身につけ方
日本の教育改革は大学入試から始まる
21世紀型能力は必須アイテム
探究型の学習が日本の教育を変える
第3章 〝1歩先いく〟学校の選び方
教育環境が与える影響は大
いつする? 受験
公立・私立どっちを選ぶ?
どうする? 受験の準備
どこを見る? 中学校選び〝7つのポイント〟
これまでの学校制度とは違う選択もある
時代が求めるのは出る杭
第4章 ● 出る杭を伸ばす親の役割
いい学校卒業≠幸せ、でもいい学校を目指すジレンマ
医学部人気・リケジョブームに乗る前に
自己肯定感が低い日本の子ども達
キレる子ども達の原因は眠りにあり
子どもに魚の釣り方を教える
ゲーム感覚で身につける、伝える力
社会を知り考える力を育てる、Jリーグの取り組み
子どもを成長させるナナメの関係
イノベーターを育てる鍵
子育ては野菜作りに似ている
第5章 ● 未来はお母さんに託されている
育てたように子は育つ
成功したいなら「失敗力」を育てなさい
自ら考えさせるには任せて見守る
母さんのミッションは人材育成
18歳までに社会へ恩返しのできる人に!
クエスト(探究)のすすめ
★ 教育対談
開成中学高等学校長・東京大学名誉教授 柳沢幸雄×中曽根陽子
グローバル時代を生き抜くために必要な力とは?
さっそくですが、皆さんはお子さんにどのように育ってほしいと思っていますか? 将来どんな大人になってほしいですか?
ひとつでいいから、何か自分の好きなことを見つけてほしい。持っている力を発揮してほしい。できれば、才能を開花させて活躍してほしい。
世の中の役に立つ人間になってほしい。世界に羽ばたく人になってほしい。なんていう願いもあるかもしれませんね。
あるいは、平凡でもいいから、一生苦労しないでほしい。安定した仕事に就いてほしい。なんていう願いもあるのかも。
いろいろな思いがあるかと思いますが、どの親にも共通している願いは、「我が子には、幸せになってほしい!」ということではないでしょうか。
そして、そのためにこの子の可能性を少しでも開きたいと願い、毎日一生懸命、子育てをされていると思います。
以前、私が出会ったあるお母さんも、そんな一人でした。
そのお母さんは、「子どもは、環境次第で大きく変わると言うから、自分の子どもにはできるだけいい環境を与えたいんです。
だって、何がきっかけになるか分からないでしょう。だから、私が仕事をしているせいで、その機会を逃したら子どもがかわいそう」と言って、
お子さんが保育園の時から、熱心にいろいろなお教室の説明会や体験会について調べ、土日は必ずと言っていいほど、あちこちで開催されるワークショップに参加していました。そして、「土日に何も予定がなくて、子どもがゴロゴロしているのを見ると、すごくもったいないと思ってイライラしちゃって、ついつい予定を入れてしまいます」と言っていました。
皆さんはどうでしょう。お子さんにどんな力を身につけさせたいと思っていますか。そのために、何かしていますか?
「これからはグローバル社会だから、英語は絶対、身につけさせたい。
英語の発音と耳を育てるには、ゴールデンエイジがあるらしいから、今から英語教室に入れよう」
「理系に興味を持ってほしいから、実験教室」
「発想力を育てたいから、知能開発の教室」
「センスがだいじだから、アート教室」
「これからはプログラミングが必修になるらしいから、プログラミング教室」
「個性を発揮しなくてはいけない時代だから、何か一芸に秀でてほしい。だから、ゴルフ教室に通わせている」
「サッカー教室に入れよう」
「私はテニス」
「絶対音感を育てたいから、バイオリン教室に通わせる」
「ダンスが必修だっていうし、踊れたらかっこいいから、ダンス教室」
「身体と心を鍛えるために、空手教室」
このような積極的な理由だけでなく、
「体育が苦手だから、体操教室に入れて逆上がりを習っている」とか、
「泳げないとかわいそうだから、スイミングスクール」というように、苦手を克服させるために専門の教室に入れる人もいます。
あるいは、
「結局世の中は学歴社会なんだから、少しでもいい学校に入れないと、子どもの将来は開けないわ! そのためには、小学校に上がったら塾選びをしないと……」などなど。
挙げると切りがありませんが、実際、習いごとを掛け持ちして、1週間のスケジュールがいっぱいという子どもは私の周りにも結構います。
世の中には「こうして我が子を東大に入れました」とか、「頭の良い子に育てるには」とか、それはそれは刺激的な子育て情報が溢れています。
しかも最近は、「東大よりハーバード」というようなキャッチコピーが躍り、ますます学歴のハードルが上がっているような……。
早期教育の重要性を訴える記事も多いですよね。
その道の偉い方が「子どもの脳を開発するのに、今○○をしないと手遅れになります」と言う言葉を目にしたら、
まじめなお母さんほど、「自分のせいで手遅れにしたくない」と思ってしまうかもしれません。
でも、世の中に出回っている情報は、本当にすべて正しいのでしょうか?
確かに、子どもを育てる上で、その発達段階に合わせた対応が大切ですし、親の関わり方次第で子どもの力を伸ばすこともできると私も思います。
でも、その方法や向かう方向が間違っているとしたら……。
幸せになってほしいから頑張っていたのに、開くはずの子どもの可能性を逆に潰してしまうことにもなりかねません。
子ども達が大人になる頃には、今まで以上に、私達を取り巻く社会も変わっていくと言われています。
そうなると、一生ものの武器を与えたはずが、まったく役立たずになってしまう、などということもあるかも。
変化の激しい時代を生き抜いて活躍するために何より大事なのは、失敗を恐れずにチャレンジするタフさと、
心が折れそうになっても、そこから立ち直る力を育てることです。
最近、レジリエンスという言葉をよく耳にするようになりました。もともとは〝外力による歪みを跳ね返す〟という意味の物理学用語ですが、
そこから派生して心理学の用語としても使われています。変化に対応する力とも言われます。
例えば震災など、経験したことのないような困難に出遭っても、そこでくじけずに前に進む精神的なタフさもそうですね。
私はそれを「失敗力」と名付けます。失敗をする力ではなく、失敗にくじけない力です。
そういう力をつけるためには、子どもの頃から親は失敗を恐れずに、できそうなことはできるだけ子どもに任せて、いろいろな体験をさせることが大切です。
そこで、これから皆さんと一緒に、これからの時代に活躍できる子どもに育てるために私達親が何をすればいいのか、
反対に何をしてはいけないのか、またどんな教育を与えればいいのかをさまざまな視点から考えていきたいと思います。